おいしそうに焼き上がったモモ肉の串を頬張ると、噛んだ瞬間にこんがりした皮目とジューシーな正肉から同時に肉汁がほとばしる。その肉汁は旨みを伴いつつ、あくまで澄んだ香りがし、上品だ。そのまま噛み込んでいくと、整った筋繊維を歯が通り、心地よい弾力が感じられる。
おいしそうに焼き上がったモモ肉の串を頬張ると、噛んだ瞬間にこんがりした皮目とジューシーな正肉から同時に肉汁がほとばしる。その肉汁は旨みを伴いつつ、あくまで澄んだ香りがし、上品だ。そのまま噛み込んでいくと、整った筋繊維を歯が通り、心地よい弾力が感じられる。
岡本ファームの京地どりは、若鶏と呼ばれるブロイラーでは味わうことのできない、京都らしい地どり肉である。京都府内で有名な日本料理店やレストランから「岡本さんの京地どりでなければ」と名指しで注文を受けている。もちろん、それは福知山市内でも同様で、県外から客が訪れる有名店の親子丼に使われるなど、人気の的だ。
その岡本ファームの岡本嘉明さんは、福知山の夜久野地域で50年以上、鶏肉の生産を行ってきた。
「昔はね、肉専用の鶏品種なんてありませんでしたから、たまごを採るための鶏のオスを大きく育てて、肉にしていたんですよ。その頃からずっとやってますからね。」
その後、手がける鶏が短期間で成長してくれるブロイラー品種に変わったが、この一帯で岡本さんの生産する若鶏肉は品質のよさで知られ、広く流通している。京都府内のブロイラー生産者会議の会長を務めるなど、地域にも貢献してきた。そんな岡本さんは、平成26年から試験的に京地どりの飼育を始め、試行錯誤しながら今の味にたどり着いた。
「府の畜産関係者から『岡本さん、京地どりを生産する人が居ないから、やってくれんか』と声をかけられたんです。その時にね、私が子供の頃に食べた、鶏のお肉を骨ごとミンチに叩いて鍋にして食べた味を思い出しましてね。あんなおいしい鶏肉を世に出せたらと思って、挑戦することにしたんです。」
京地どりは、京都府が作出した地鶏の品種だ。「地鶏」というと、一般の消費者は「その辺の庭先で飼っているような鶏を地鶏と呼ぶんでしょう?」と思っている節があるが、そうではない。地鶏肉というものは農林水産省によって鶏の品種と飼い方がしっかり規定されている。その品種として、明治時代までに日本国内に定着していた在来の鶏の血統が50%入っていること。飼い方としては、ふ化してから75日以上飼育していること、28日齢以降は平飼いで、1平米あたり10羽以下の密度で飼育することが求められる。
品種に在来種の血統が50%というのは、「日本の鶏」を名乗るのであれば納得できるが、養鶏の観点からみるととても大変だ。というのも、現在私たちが一般に食べている若鶏の肉は、世界の鶏メーカーで品種改良が劇的に進んだ品種を用いており、50日で3キロ以上の体重になるという。一方、在来種はその古さゆえ、多くの品種が120日くらい飼ってようやく3キロになるかならないかという成長率の低さなのだ。それでも、生産者が丹念に時間をかけて育てた地鶏肉は、若鶏では味わうことのできない旨みの濃い肉質となる。
京地どりは、国が定めた地鶏の要件を備えた品種で、シャモと横斑(おうはん)プリマスロックという二種の在来種を掛け合わせた品種だ。シャモは「軍鶏」と書き、もともとは東南アジアで闘鶏用に飼われていた、引き締まった肉質が特徴の鶏だ。日本へは江戸時代にはすでに渡来し、庶民に親しまれていた。横斑プリマスロックと聞くと海外の品種に思えるだろうが、明治期には日本に渡来し在来していたため、これも立派な在来種。つまり、地鶏の要件である在来種50%の条件を上回る、在来種100%の贅沢な品種なのである。
岡本ファームで育てる若鶏の羽数はとても多いため、鶏舎は人里離れたところに大きな施設を構えている。しかし、手のかかる京地どりの羽数は少ないため、若鶏とは違う地域に鶏舎を建てている。
足を運ぶとそこは、深い緑に包まれ、清冽な川の流れに沿った鶏舎環境だった。
「養鶏では、水が綺麗でなければ、鶏を健康においしく育てることが出来ません。」という岡本さんの言葉が、なるほどと思える鶏舎の配置であった。鶏たちは、鶏舎の中を自由気ままに餌をついばみながら歩いている。
「京地どりは、国が決めた地鶏の規格よりも広いところで育てる決まりがあります。国の規格では28日齢以降、1平米あたり10羽以下で育てることとなっていますが、京地どりはさらに49日齢以降、1平米あたり8羽以下で育てることと申し合わせています。」
1平米あたりの飼養羽数が少なければ少ないほど、ゆったりした空間を得ることができる。人と同じで、鶏も狭いところに押し込められるとストレスが溜まって病気になりやすくなる。京地どりは鶏の健康にも配慮されているのだ。
京地どりの特徴はそれだけではない。味わいに大きく関わるポイントが、鶏に与える餌にもある。
「京地どりではね、飼料に籾のついた米を5%以上、そして竹を粉砕した粉を2%以上食べさせることと決まりがあります。うちではこの辺で穫れた無農薬の籾米と、丹後の方で伐採された竹の粉末を飼料にまぜて食べさせています。」
鶏に飼料用米を食べさせると、脂の色が白くなり、味わいがアッサリしてくるものだ。また、竹の粉末には鶏の健康を増進し、餌をよく食べるようになる効果があるという研究結果がある。
「トウモロコシや米ぬかなどを混ぜた飼料は餌会社から買ってますが、それを給餌タンクに入れる導管は僕が自作したりしましてね。まあ、自分でいろいろ試してますわ。」と笑う岡本さんだった。
じつは岡本さんが、福知山市のエエもんにこの京地どりを出品したのは今回が初めてではない。その時点でも岡本ファームの京地どりの素晴らしさは福知山市の内外に識られていたが、この品種の掛け合わせが変わることになったのだ。
「以前の京地どりはシャモと横斑プリマスロックに、名古屋種という在来種も加えた三元交配だったんです。でも、名古屋種の種鶏を生産しているところから、もう今後は出荷できないということになったんですわ。」
地鶏肉において、品種の掛け合わせは肉質や味を決める大きな要素だ。その掛け合わせが変わってしまうという危機に直面。ちょうどその切り替え時に、エエもん審査があったのだ。審査員の三人の意見は「味が変わってしまう可能性があるのであれば、現時点で評価することが難しい」というもの。このため、岡本さんはその年のエエもん認定を逃すこととなった。
ではその後、品種の掛け合わせはどうなったのか。
「以前は三元交配だったのですが、シャモと横斑プリマスロックの二元交配に変更されました。肉質が変わるかと思ったのですが、大きくは変わりませんでした。それどころか、以前より好評をいただいているお客さんもいるくらいで、、、」
実際、岡本ファームの京地どり肉は、極めて高い評価を得ている。今回は、この記事のため京都市の西院で、高級焼鳥店「にし野」を営む西野顕人(にしの・あきと)さんに京地どりを捌いていただいた。
みるからにしっかりと味ののっていそうなモモ肉の色の深さ。そして胸肉は筋肉のスッとした流れがみえるような美しさだ。西野さんは岡本さんの京地どりについてこのように表現してくれた。
「京都で育つ京野菜やお米は、濃すぎない、上質な味わいになることが多いのですが、岡本さんが育ててくれた京地どりの肉もそう。エネルギーがあるのに、いい意味でとてもあっさりして上品な味わいなんです。鶏肉もいろいろで、脂がコッテリし過ぎているものや、味が濃くても生命力を感じないものもあります。この京地どり肉は塩をして焼いて食べたときに、気持がスッと清々しくなるような味わいです。まさに『京都』という地域を体現している味ですね。」
西野さん、そう言いながらモモ、ムネ、レバー、ササミに串を打ち、炭火で見事に焼き上げてくださった。それが冒頭の写真である。
柔らかながらキュッと締まった胸肉を口に運ぶと、西野さんが「上質で上品」と言っておられたのがまさにその通りと感じる清々しい香りが鼻に抜ける。濃厚な味わいのレバーを飲み込んだ後も、やはり残るのは爽やかさだ。脳裏には、岡本さんの鶏舎の横を流れる清水の流れる小川の風景が思い浮かんだ。あの環境が鶏肉の味となっているかのようだ。
岡本ファームの京地どりは、福知山市が誇ってよい地鶏肉である。料理店でいただくことを薦めるが、市内各所で、冷凍にした地鶏肉を購入することも可能だ。もし買い求めることができたら、ぜひ塩だけをして焼いて食べていただきたい。きっと、あなたの脳裏にも夜久野の自然が思い浮かぶはずである。