髙橋さんの干しシイタケを一言であらわすと、干し椎茸としての香り、味わい、うま味を強くもちながらも、綺麗な香りであることといえるだろう。なにしろ、当代きってのフレンチ料理人が自らの料理に「使いたい」と言うほどなのだから。
「干し椎茸がこんなに上品なの!?」
と感嘆の声を漏らしたのは、エエもん審査会で審査員を務める一人・東京の新橋で、全国にその名を轟かすフレンチレストラン「ラ・フィネス」を営む杉本敬三シェフだ。
髙橋さんの干しシイタケを一言であらわすと、干し椎茸としての香り、味わい、うま味を強くもちながらも、綺麗な香りであることといえるだろう。なにしろ、当代きってのフレンチ料理人が自らの料理に「使いたい」と言うほどなのだから。
「干し椎茸がこんなに上品なの!?」
と感嘆の声を漏らしたのは、エエもん審査会で審査員を務める一人・東京の新橋で、全国にその名を轟かすフレンチレストラン「ラ・フィネス」を営む杉本敬三シェフだ。
「普通なら感じるクセをまったく感じません。綺麗な香りなんです。それでいてうま味と味わいは濃い。理想的なシイタケなんです。」
フランスではマッシュルームやポルチーニといったキノコを使うことはあっても、シイタケが使われることはほとんど無い。フランスのキノコ生産者でシイタケ菌を輸入して生産している事例はあるものの、日本料理店向けの出荷であることがほとんどである。しかし、杉本シェフはこのシイタケ、それも香りの強い干し椎茸をフレンチで使える、いや使いたいという。同席した審査員の溝口康と山本謙治も、このシイタケの美味しさはもちろん認めていたが、フランス料理に使いたいという杉本シェフの言葉には驚いた。
審査の翌日、審査員一行が髙橋椎茸園へ足を運んだのだが、第一声が「こんな山の中なの!?」というものだ。高橋さんの椎茸園があるのは、福知山市の中でも山深い、大江町にある標高630メートルにもなる天ヶ峰の山中だ。
舗装された道路から枝道をしばらく分け入る。森の木が直接日光を遮るためか、うっそうとしてほの暗い。目が慣れるまで見えなかったが、シイタケの原木が、木漏れ日の中、谷筋の水の流れに沿って立てられていた。苔むして適度な湿気がある、キノコ類の生産には好適な条件だ。
「こんな自然の中で、シイタケを育てています。」という髙橋さんは、じつは市役所の職員として長く働いていた方だ。第二の人生を目指す中で、先祖から継いだこの山を活かすことを考えたという。
「やっぱり、福知山のよいところは、都市部があることもそうですが、山や川といった自然が豊かであることと言えます。この土地ならではの自然を利用してできることとして、シイタケ栽培に行き着きました。」
こんにち、キノコの栽培は気象条件に左右されず、過大な手間もかからない菌床栽培が主流となっている。一方、自然の木を切り、そこにシイタケ菌を打ち込んで生産する原木シイタケは、重量のある原木を用意する労力がかかるため、生産者は年々減っている。
「でも、この天ヶ峰一帯はまず水が綺麗なんです。そしてこの空気、自然の力が湧いています。ここで原木シイタケを作ったらおいしくなるだろうと自分でも思ったんですね。」
髙橋さんは、この地を開き、シカなどの鳥獣対策として網を張り巡らして、原木シイタケ栽培の環境を作った。併行してシイタケ菌の専門企業に足を運んで研修し、シイタケ生産の基礎を学んだ。
生産にかかせない水については、美麗な味わいの天ヶ峰の伏流水を夏から秋にかけて原木が乾燥しないようにパイプで引いて散水している。この水が涸れることなく、シイタケを涵養しているのだ。
この天ヶ峰の環境をみていただければ、なぜここで作られるシイタケが綺麗な香りなのか、伝わるだろう。
実際に足を運んだ杉本シェフはやや興奮気味に「生シイタケも分けてもらえませんか?」と尋ねていた。
「もちろん、生シイタケも採れるのですが、年間通じて販売しようと思うと、干しシイタケがよいので、そちらに注力しています。」という。複数の品種を使い分け、味わいと香り、うま味が最適になるよう調整しているそうだ。
ただし、第一回目に開催されたエエもんにセレクトされて以降、あちこちからの引き合いが強くなり、年の半ばで「もうないんです」と在庫切れになることがここ数年多かったのも事実だ。今後は、1年を通じて安定して販売できるよう、量も確保していくという。
実際に、シイタケをフレンチ料理に仕立てたらどうなるのか? 後日、審査員の溝口と山本は、東京は新橋にある「ラ・フィネス」に足を運んだ。
なんと髙橋さんのシイタケが使われる料理はメインの一皿。
「フランスはピレネー山脈のミルクラムの肩肉の高温長時間ローストに、桑名の蛤と空豆とイタリアン産グリーンアスパラと福知山の高橋さんが作る椎茸のフリカッセをあわせています。」
なんたる贅沢な取り合わせだろう!
この一皿、ミルクラムのやわやわとした、モツのようなコラーゲンっぽいタンパク質を三重、四重の旨みがサポートしている。
その中に、シイタケの香りと旨みが優しく効いているのだ!贅沢極まりない一皿。多種の味わいと香りを重ねているのに混乱がなく、濁りも感じない。堂々たるメイン料理である。
髙橋椎茸園の干しシイタケのおいしさの理由は、原木キノコの味わいを決める自然環境の豊かさにあった。天ヶ峰の自然の中で、美麗な味の伏流水で育った原木に種をつけ、時間をかけて育てた椎茸は肉厚でふっくらとした極上品だ。水で戻して出汁を取り、そしてシイタケ本体も料理して味わっていただきたい。きっと「綺麗な香り」と言っている意味をお分かりいただけると思う。