万願寺とうがらしは京野菜の中でも全国的に有名であり、また販売量も抜きんでて多い品目だ。その万願寺とうがらし、舞鶴市の万願寺地区で1920年代に原種が生まれたといわれる。辛みがなく、炊いて食べることのできるトウガラシが西日本で栽培されるようになり、その代表とも言われる伏見とうがらしに、北米産の大型品種が交雑したことで生まれたのではないかとも言われている。
万願寺とうがらしは京野菜の中でも全国的に有名であり、また販売量も抜きんでて多い品目だ。その万願寺とうがらし、舞鶴市の万願寺地区で1920年代に原種が生まれたといわれる。辛みがなく、炊いて食べることのできるトウガラシが西日本で栽培されるようになり、その代表とも言われる伏見とうがらしに、北米産の大型品種が交雑したことで生まれたのではないかとも言われている。
福知山市は、この万願寺とうがらしの由緒正しき産地の一つだ。加えて、福知山市は万願寺とうがらしのブランド産地でもある。舞鶴市、綾部市、そして福知山市で生産され、JA京都にのくにの厳しい基準をクリアして出荷される万願寺とうがらしには「万願寺甘とう」というブランド名が冠される。この万願寺甘とうは国が指定する地理的表示(GI)保護制度に登録されており、間違いの無いものとして流通しているのだ。
そんな福知山で万願寺とうがらし栽培を40年以上続けてきたのが、「丹波の里ひぐち農園」を率いる樋口泰夫さんだ。
ひぐち農園のある三和地区は中山間地の割合が多く、豊かで清浄な川水に恵まれ、寒暖の差があって美味しい農産物のできる地として知られている。三和地区で特に知られている作物が大粒ブドウと万願寺とうがらしだ。
ひぐち農園のハウス内は、健康的な樹勢の万願寺とうがらしのエネルギーで満ちていた。
みどり豊かな万願寺とうがらしだが、樋口さんが生産者としてずっと抱えてきた一つの「課題」があった。それは、熟した万願寺とうがらしのことだ。
ご存じかもしれないが、青とうがらしというのは、完熟する前の段階で収穫するもの。トウガラシの仲間であるピーマンもそうだが、未熟果は緑色で、これを樹につけたままにしておくと、緑色のなかに黒色がまだらに入り、そのまま置いておくと赤熟する。
産地に近い人や、身内が農家ということでもないかぎり、赤く熟した万願寺とうがらしを食べたことがある人は少ないだろう。通常は、赤くなりかけたもの、真っ赤なものはブランド基準に沿わないため、正規のルートでは出荷されないことが多い。「出荷されない」というのはどういうことかというと、基本的には廃棄するということだ。万願寺とうがらしは緑色のものという認識が強く、赤いものが流通すれば消費者に誤認を与えかねない。それに、色の変化に伴って、味わいも変化してしまう。だから、万願寺とうがらしとして出荷されるのは緑色のものだけなのだ。
しかし、赤く熟した万願寺とうがらしを食べたことがある人ならご存じだろうが、熟した万願寺とうがらしはとてもおいしいものだ。ピーマンもそうだが、未熟な緑色の状態だと、とうがらしは特有の青臭い香りに満ちているものだ。これが赤熟していくにつれ、青臭さは無くなり、フルーティーな香りに変化し、甘さが増していく。
「これを捨てるのはなんとももったいない。この熟した万願寺とうがらしをなんとか活かす方法はないだろうか。」樋口さんはそう考えた。地域おこし協力隊や民間企業の手を借りながら、完熟した万願寺とうがらしを活用した商品開発を試みた。当初、挑戦したのは万願寺とうがらしのジャムだった。辛いイメージのとうがらしをジャムにするという発想はなかなか興味深いものだし、味も深い甘さがあってよいものではあったが、賛否両論という結果になった。
そんな、試行錯誤のなかで「これだ!」となったのが、「京都丹波 万願寺ドレッシング」だ。
万願寺とうがらしは収穫期が夏から秋と決まっている。その時期、真っ赤に熟したものを収穫して、まとまった分量を冷凍しておく。それを、ひぐち農園の農産加工場でドレッシングに製造する。
一本150mlの中に、実に100gもの万願寺とうがらしが使われている。重量比にして半分以上も入っているのだから万願寺とうがらしの味と風味が濃厚なのだ。それ以外の原材料もきび砂糖、米油、米酢、はちみつ、ゆず、米粉、醤油、塩。アミノ酸などうま味を増強するようなものは使われていない、とても素直な内容だ。
「完熟した万願寺とうがらしは甘味もうま味も濃いですから。ヘンなもんは入れなくても十分に美味しい。」ということなのだ。じつはこの点は、「ええもん」の審査員である溝口康(ネイビープランニング)が気にしていたことだ。
「百貨店やこだわり系の高級スーパーですと、近年はうま味調味料を添加している商品を選ばないというバイヤーが多い傾向があります。その点、このドレッシングは安心できる原材料ばかりで、よいですね。」
また、審査員を務める杉本敬三シェフ(ラ・フィネス)もこの味わいが気に入ったという。
「三和地区はほんとうに美味しい野菜や果物ができる地域なんです。完熟させた万願寺とうがらしの味と香りはすばらしいですね!」
このドレッシングを、福知山駅前にあるレストランku-nelに持っていき、葉野菜と和えたサラダを作ってもらった。ミズナやリーフレタス、ベビーリーフなど複数の葉野菜、それもちょっと香りがあるようなものを混ぜたものに万願寺ドレッシングをからめる。
そうすると、野菜の香りに完熟した万願寺とうがらしの甘さ、コク、うま味がからみついて、それだけでとてもおいしいサラダとなる。普通ならカリカリに焼いたベーコンやツナなどのたんぱく質を足さないと物足りないものだが、ドレッシングのおいしさだけで立派なサラダになるのだ。
玉ねぎや青じそなど、野菜ベースのドレッシングはいろいろなものがある。そこに、万願寺とうがらしを贅沢に使ったドレッシングが新風を吹き込んだ。福知山市内の直売施設やスーパーでこのラベルを見かけたら、ぜひ手に取っていただきたい。